急勾配の山の斜面に広がる園地で、太陽の光をたっぷり浴びて輝くレモン。
約25年前から有機栽培に取り組む生産者は、「より安全でおいしいものを」と
自信を持って育てていました。
有機栽培で皮まで食べられるから、料理やお菓子に大活躍のレモン。産地は、温暖な気候でかんきつ栽培が盛んな愛媛県・今治市の三皿園です。三皿園は明治時代から続く農家で、温州みかんやあまなつなど多種類のかんきつを栽培、レモンの園地は約2割を占めます。有機栽培を始めたのは約25年前、4代目の故・越智章太郎さんでした。
「きっかけは、夫の全身にじんましんが出たこと。足の裏以外は全部発疹に覆われ、見ていられないほどでした」と振り返るのは、妻の日出子さん。「最初は飼い犬にノミがいるのかと犬をお風呂に入れ、家中の畳を上げて消毒しました。それでも良くならないので病院に行っていろいろな検査をしましたが、原因は特定できませんでした」
章太郎さんは当時苗木の育成に使っていた農薬を疑い、散布を中止。すると症状が改善したことから、有機栽培への移行を決めました。しかし有機栽培は、雑草を手作業で刈る必要があり、病害虫の管理にも多くの時間と労力がかかります。隣接する園地の友人から「あんたのところから虫が飛んでくる。草が入ってくる」と文句を言われたことも。そうした中でも「体に悪いものを消費者には届けたくない」と試行錯誤を繰り返し、2005年に全園地で有機JAS認証を取得。現在は園地を7.6ヘクタールまで広げています。
章太郎さんは13年前に他界。現在は信念を受け継いだ日出子さんが栽培を続けています。
「三皿園は有機栽培の年数が長いので、土が違います。ここで採れるレモンは味がとがっていなくて、香りが豊か。有機栽培だと病気になりやすいのですが、条件がいいとピカピカ光るようなレモンができるんです」と日出子さんは笑います。より安全でおいしいレモンをつくるため、栽培方法を研究し、いろいろなやり方を試しています。「あと5年はやれると思う」と話す日出子さん。しかし悩みもあり、大事にしてきた園地を継いでくれる人が現れるのを待っているとのこと。「おいしいものを作って、魅力ある農業を続けたいですね」
すぐに使えるよう、冷凍室にカットしたレモンを常備しているという日出子さん。レモンはさまざまな料理に合い、中でもみそ汁に入れるのがおすすめです。「半月切りに薄く切ったレモンを入れて毎朝飲んでいます。ふわっと香りがして心が穏やかになります」
肉とも魚とも相性が良く、汁物やスイーツなど幅広く使える有機のレモン。旬の今、フレッシュなおいしさを楽しんでみませんか。
3月末に収穫を終えたら、苦土石灰をまいて土壌の酸性度を整えます。有機質肥料として鶏ふんをまき、微生物が生息しやすい環境をつくります。その後は2カ月に1回、鶏ふんを与えます。
「木が元気になって実がたくさんつきます。やりすぎは良くありませんが、木が大きいのでそれなりの量を与えます」と日出子さん。
温暖な今治では一年中花が咲き(写真A)、実がつきますが(B)、特に摘果せず自然に任せています。
三皿園では有機JASで認められた農薬を2種類使用。さまざまな病害虫に対応するため、時期を変えて予防します。
有機質肥料を与えると同時に新芽が出てくるため、その芽を守るためにまず3月末に行い、時間があれば5月にも実施。そして6月末か7月初めにも行います。
「有機栽培では果樹の病気が大変です」と日出子さん。
枝の伸び具合を見ながら剪定(写真C)。高いところは電動ばさみを使い、日当たりや風通しが良くなるよう枝葉が混んでいる部分をカット。
作業性を重視し、三皿園では誘引・支柱はせず、上に伸びる枝や垂れ下がってくる枝を切っています。
夏場は草刈りも行います。強い日差しに加え、レモンの木には鋭いトゲがあり、有機栽培の園地では虫も多いため、完全防備で作業します。
9月末から3月末の間に収穫。収穫時期の始めは果皮が青くフレッシュな香りと酸味(写真D)、年末にかけてだんだんと黄色く色付き、酸味がまろやかになります。
収穫に適したサイズを生産者は自分の手で覚えているもの。日出子さんは指で外周を測り(E)、適したサイズのみ、もいでいきます。
収穫したレモンは軽トラックで作業場まで運び、選果機と目視で選別した上で箱詰めします(F)。
【広報誌2025年1月号より】